自己破産したらスマホ(携帯電話)はどうなる?
自己破産をすると、原則として借金を代表とした全ての金銭支払義務、つまり「債務」(債権者から見れば「債権」)を、全額免除してもらうことができます。
しかし、債務者にとっては、自己破産後の生活にある一定の制約が生じることになります。
では、スマホ(携帯電話)に関しては、どのような制約が生じるのでしょうか。
ここでは、自己破産とスマホ(携帯電話)の各種支払いについて、詳しく解説していきます。
このコラムの目次
1.自己破産で問題となるスマホの支払い
「スマホの支払」と一口に言いますが、実際には「通信料の支払い」と、「スマホ本体の端末代金の割賦払い」の2つがあります。
結論から言えば、通信料の延滞がなく、スマホ本体の割賦払い残高もなければ、通信料を支払い続けることで、自己破産手続の影響を受けずに、これまで通りスマホを使用し続けることが出来ます。
裏を返せば、通信料の滞納がある場合や、スマホ本体の割賦払い残高が(滞納しているかいないかに関わらず)ある場合には、問題が生じてしまいます。
2.自己破産で問題となるスマホ通信料の支払
(1) 通信料滞納が無い場合
破産手続開始決定前の通信料の支払いについては、詳細な法律上の根拠は異なるのですが、基本的に、債務者の生活のために必要な出費として、免除されることなく、いつでも支払うことができます。
そのため、通信料に滞納がない状態で、契約通りに毎月の通信料を支払っても、特定の債権者のみを優先して借金を返済する偏頗弁済には該当しません。
また、破産手続開始決定後の支払いについては、そもそも、自己破産手続の対象となりません。
(2) 通信料滞納がある場合
通信料の滞納があるまま自己破産手続をすると、この滞納通信料は、法律上、通常のキャッシング取引やショッピング取引の残高と同じく、破産債権として扱われます。
したがって、携帯会社を債権者として届け出て、最終的に免責決定が得られれば、滞納通信料の支払も併せて免責されるものの、携帯会社にスマホの契約自体を解約されてしまい、結果的に、スマホの利用が大きく制約されてしまいます。
かといって、自己破産手続直前に上記の滞納通信料を解消してしまうと、今度は、通信会社だけを優先した偏頗弁済となってしまいかねません。
偏頗弁済の事実があると、少なくとも破産手続は管財事件となり、手続の負担が重くなりますし、最悪、これを理由に免責不許可となるリスクも生じます。
偏頗弁済について詳しくは、以下のコラムをご覧ください。
[参考記事]
自己破産において問題となる偏頗弁済について
3.本体の割賦払いの残金
スマホ本体に割賦払いの残金が残っていれば、それを延滞していなくても(毎月約定通りの分割金を支払っていたとしても)、原則としては、破産債権として、自己破産手続における免責の対象となってしまいますので、そのままでは、スマホ本体の解約を免れることができません。
かといって、端末代金の残金を繰り上げて返済すれば、これも偏頗弁済となってしまいます。
ショップでの引き渡しの際にスマホ本体の所有権が移転する契約がほとんどなので、端末本体を返却する必要はないかもしれませんが、電話通信契約が解約されてしまうと、wi-fiを利用してインターネットを閲覧するくらいしか出来なくなるでしょう。
4.偏頗弁済とせずに自己破産手続きをする方法
上記のような偏頗弁済のリスクを回避して、通信料の滞納や本体の割賦払い残金を解消する方法は以下の通りです。
(1) 裁判所に偏頗弁済ではないと認めてもらう
滞納している通信料や本体の割賦払いの金額がわずかしかない場合には、裁判所が、手続前の滞納通信料の支払を(実質的に)偏頗弁済と扱わないでくれる場合があります。
スマホは、債務者の生活のために必要と認められるものです。申立前の滞納分についても、金額が少なく、他の債権者に及ぼす影響が少なければ、債権者平等を著しく害するとまでは言えないと考えられます。
もちろん、客観的に見れば、債権者平等の原則に反していることに変わりはありませんから、裁判所が必ず認めてくれる保証はありません。
各地の裁判所の運用に通じた弁護士の助言に従いましょう。
(2) 第三者弁済
第三者弁済とは、契約当事者ではない人(債務者本人ではない第三者)が、債務者に代わって、債務者の債務を債権者に支払うことです。
偏頗弁済が破産法上禁止されている理由は、既に支払不能の状態にある債務者の財産(=破産手続を通じて債権者に平等に配当されるべき財産)を流出させ、特定の債権者だけが利益を得ることで、債権者間の平等が害されるためです。
この点から考えると、債務者以外の第三者が弁済すれば、債務者の財産は流出しませんから、他の債権者に不利益が生じることはありません。そのため、第三者弁済は、債権者平等の原則に反することはなく、偏頗弁済とならないのです。
そこで、家族等に頼んで、第三者弁済の方法で、通信料の滞納や端末代金の残金を代わりに解消して貰うことも一つの選択肢です。
もっとも、家計が同一の家族の場合、家族を迂回した偏頗弁済だとされかねませんから、その点は注意が必要です。
例えば、家族の名義で債権者への返済が行なわれていたとしても、その返済原資が債務者の財産から出ている(いわば、債務者が裏で家族に金を渡している)場合は、やはり偏頗弁済とみなされます(むしろ、脱法的な行為をやろうとしたという点で、結果として、直接自分の名義で偏頗弁済したケース以上に、裁判所や管財人に悪い印象を与える危険もあります)。
また、たとえ返済原資は第三者が出していても、そのお金を債務者が第三者から受け取った上で、債務者自身が債権者に返済した場合は、追加の借入行為+偏頗弁済という、二重の問題が発生することになります。
あくまで、ここでいう第三者弁済とは、「第三者が、第三者自身の財産を使って、債務者を介さずに、債権者に直接弁済を行なうこと」を意味しています。
5.自己破産後の新規契約・分割購入などについて
(1) スマホ回線の再契約
まず、通信料や本体の割賦払いに滞納がなく、携帯会社が破産手続の債権者とはならなかった場合は、再契約や他社への乗り換え(MNP)も問題なく出来るでしょう。
また、通信料とスマホ本体の滞納分を破産手続に含めて免責されている場合は、それまで使用していた携帯会社でなければ、免責後、再契約をすることは可能でしょう。
一方、それまで契約していた携帯会社(破産手続によって滞納分の請求権を免責されてしまった携帯会社)は、自己破産の情報を保有し続けるので、再契約をすることはまず困難です。
破産後、通信料の滞納で携帯会社に強制解約されてしまっている場合は、まだ未払が残ったままの状態です。
ドコモ、au、ソフトバンクをはじめとする主な携帯会社は、一般社団法人電気通信事業者協会(TCA)に加入しており、この機関を通して各社が通信料の不払情報を共有しています。
ここに不払情報が残っていると、回線契約を結ぶことが難しいということになります。
この場合に取りうる選択肢としては、①未払分を完済する、②未払分の免責決定を受ける、③携帯会社への情報提供が停止するのを待つ(解約後、約5年の経過が必要)、の3つが考えられます。
(2) スマホ本体の分割購入
スマホ本体の割賦払いの滞納があると、銀行などが自己破産などの情報を確認するための信用情報機関についても、情報の登録がされてしまいます(一般的によく言われるブラックリストです)。
こちらは、5年間は情報が残ってしまいますので、その間は、スマホを分割購入することは出来ません。
対応策としては3つあります。
まずは、SIMフリーのスマホであれば、SIMカードを交換してしまうことです。もっとも、この手段は、もともと使用しているスマホがSIMフリーのものでなければ利用できません。
2つ目の手段は、新しくプリペイド携帯を購入することです。
プリペイド携帯は、利用料金を先払いするものですから、利用者の経済的能力に対する審査は非常に緩く、自己破産後であっても問題なく利用できる可能性があります。MNP転入制度を利用すれば、電話番号を引き継ぐことも出来ます。
最後の手段は、クレジットカード等を使用しない、一括払での購入です。
ちなみに、スマホの機種変更の際にも、クレジットカードは使用できませんので、新たな機種の代金は一括で支払うしかありません。
(3) 自己破産とスマホの名義変更
自己破産前にスマホ本体の分割払いが終わっていれば、名義変更は問題ありません。
しかし、スマホ本体の分割払中に名義変更し、自己破産の申請をすると、携帯会社が他の債権者よりも有利になりますので、偏頗弁済に該当すると判断される恐れがあります。
6.自己破産後もスマホを使う場合は弁護士に相談を
スマホはもはや現代社会の生活で必要不可欠なものとなっています。その一方で、精密機械であるスマホ本体の価格は高額になりがちで、また、通信料の負担も大きくなっています。
自己破産をするにあたっては、通信料や本体代金の割賦払いも手続の対象となりかねず、その結果、携帯会社に契約を解約されてしまうというリスクが付きまといます。
自己破産手続を通じて、以前と同じようスマホを活用した生活を送るためにも、事前に専門家の助言の下、入念な準備が必要です。
泉総合法律事務所では、これまで多数の借金問題を自己破産で解決してきた豊富な実績があります。
このコラムでは解説しきれなかった実務的なスマホに関する説明も可能です。どうぞ、お気軽にお問い合わせください。
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