上肢の機能障害|認定条件・可動域・後遺障害等級基準
上肢とは、肩から手首(手関節)にかけての腕のことを言い、交通事故による後遺障害等級認定では、肩関節、ひじ関節、手関節を上肢の三大関節と呼んでいます。
この三大関節などが動かなくなる、または動く範囲が小さくなってしまうことなどにより、腕の機能に障害が生じることを「上肢の機能障害」と言います。
上肢の機能障害が残ったとき、入通院中の治療費などとは別に、後遺症について追加で損害賠償請求できることがあります。
ただし、そのためには、後遺障害等級認定手続で後遺障害に該当すると認定を受けることがほぼ必須です。
ここでは、認定条件や関節可動域を簡単に説明したうえで、機能障害の内容ごとに等級基準や目安となる賠償金額を説明します。
1.等級認定されるための条件
(1) 認定条件
上肢の機能障害が後遺障害と認定されるための条件は、一般的に以下の二つです。
1.事故で肉体が損傷したと確認できていること
2.症状固定時に機能障害の原因が確認できること
特に大切な条件が1です。
事故後は、できる限り早くに画像検査をして証拠に残してください。画像検査を早めに受けなければ、そもそも原因が交通事故であると認定してもらえないかもしれません。
たいていは救急搬送先の病院でレントゲンやCT検査を受けているでしょうが、靭帯や軟骨など骨以外の軟部組織は十分検査できないおそれがあります。
骨に問題がなくても関節を動かすには靭帯などが必要です。そのような軟部組織の異常を検査するためには、MRI検査をする必要があります。
認定を受けたとしても等級を上げて損害賠償金の目安を増やすには、可動域の正確な測定が不可欠です。
(2) 関節の可動域について
上肢の機能障害では、関節がどれだけ動かなくなってしまったかを示す「関節の可動域制限」が特に大切です。
これは客観的に検査できるかと思いきや、医師の測り方次第でズレが生じることもあります。そして、5度程度の僅かな誤差でも、等級の分かれ目となり、天国と地獄ほどの違いが生じてしまう分野でもあります
さらに、画像検査を早めに受けなければ、原因が交通事故であると認定してもらえないかもしれません。お早めに弁護士にご相談ください。
関節可動域については、基本的に「主要運動」を測定します。
主要運動とは、関節が持つ複数の動きの中でも、もっとも大きな役割を果たすものです。
関節可動域がどれだけ制限されているかは、ケガをしていない腕(健側)の可動域角度を基準にしてケガをしている腕(患側)の角度がどれだけ少なくなっているかを見ます。
両腕をケガしている場合は、「参考可動域角度」を基準にします。参考可動域角度は、後遺障害等級認定手続が参考としている労働災害保険制度における「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」で定められています。
肩関節や手関節は、主要運動の可動域制限が基準に満たなくても、他の運動の可動域制限が一定以上であれば等級に該当することがあります。
その運動を「参考運動」と呼びます。
(3) 認定されうる等級
肩・ひざ・手首、3つすべての関節が完全にまたはほとんどうごかなくなったとき
全廃したのが |
等級 |
後遺障害慰謝料(弁護士基準) |
労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
両腕 |
1級 |
2800万円 |
100% |
片腕 |
5級 |
1400万円 |
79% |
肩・ひざ・手首のうち2つまたは1つの関節が完全にまたはほとんどうごかなくなったとき
|
等級 |
後遺障害慰謝料(弁護士基準) |
労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
2つ |
6級 |
1180万円 |
67% |
1つ |
8級 |
830万円 |
45% |
肩・ひじ・手首のうち1つの関節がある程度動かなくなったとき
関節の可動域制限が2分の1以下ならば「著しい機能障害」、4分の3以下ならば「機能障害」となります。
可動域制限 |
等級 |
後遺障害慰謝料(弁護士基準) |
労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
1/2以下 |
10級 |
550万円 |
27% |
3/4以下 |
12級 |
290万円 |
14% |
前腕の機能障害
可動域制限 |
等級 |
後遺障害慰謝料(弁護士基準) |
労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
1/2以下 |
10級 |
550万円 |
27% |
3/4以下 |
12級 |
290万円 |
14% |
前腕の機能障害がある腕に、3大関節の機能障害があると等級が上がるケースがあります。
動揺関節など
肉体的な損傷が原因で安定しなくなってしまった関節を「動揺関節」と言います。
プラスチックや金属製の「硬性補装具」を用いなければ生活に支障が生じるケースでは後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。
等級表には記載がありませんが、以下の等級に準じるものとして扱われているのです。
等級は、基準の上では日常生活の中で硬性補装具を必要とする頻度に応じて決まっています。
硬性補装具を必要とする頻度 |
等級 |
後遺障害慰謝料(弁護士基準) |
労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
常に |
8級 |
830万円 |
45% |
時々 |
10級 |
550万円 |
27% |
また、外部から軽い力を受けるだけで簡単に脱臼してしまう「習慣性脱臼」も12級に準じるものとして認定される可能性があります。
2.逸失利益について
無事、後遺障害等級認定を受けたとしても、加害者側の任意保険会社から適切な示談金を引き出せるかはまた別の話です。
特に「逸失利益」については弁護士に依頼して保険会社と交渉する必要が高いことが多いでしょう。
逸失利益とは、後遺障害により収入を得る能力(「労働能力」)が低下したために生じる将来の収入減少を埋め合わせる損害賠償金です。
労働能力が低下する度合い(「労働能力喪失率」)は等級に応じて目安が決まっていますが、被害者様のこれまでの仕事内容や将来のキャリアマップ、勤務先の援助、そして障害の詳細な状況などの様々な事情によっては、保険会社が目安よりも低い労働能力喪失率や労働能力喪失期間を主張してくることが珍しくないのです。
特に、保険会社は、被害者様との情報格差を利用して、逸失利益そのものを認定しなかったり、労働能力の喪失期間を不当に下げて提示を出してきたりすることがあります。
その様な保険会社に対して効果的に反論するには、法律の専門家である弁護士に依頼し、現実に仕事に生じている悪影響や将来生じると予測される問題を法的な主張に組み立ててもらうことが効果的です。
3.まとめ
上肢の機能障害では、遅くとも申請のための可動域検査よりも前に弁護士に相談し、適切な可動域の測定方法に関しアドバイスを受けるようにしてください。
可動域の測定は基本的に医師が被害者様の腕を動かして行いますから、医師の力の入れ具合などによっては測定結果に大きなばらつきが生じてしまうおそれがあるのです。
認定後の示談交渉でも、保険会社が逸失利益を減らそうとしてくることは珍しくありません。中には、逸失利益をそもそも認定していないこともあります。
ほとんどの場合、逸失利益は、後遺障害慰謝料と並んで最も金額に影響を与える要素であるので、個々の認定がされていないと、示談後の受取金額が極めて少なくなります。
弁護士に依頼すれば、損害賠償金の相場を上げて金額を増額できる可能性があるだけでなく、労働能力喪失率や労働能力喪失期間について適切な反論をして、妥当な金額で和解できるよう保険会社と交渉します。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故被害者の方の損害賠償請求をお手伝いしてまいりました。
上肢の機能障害で損害賠償請求をご検討の方は、ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
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