自己破産で差し押さえを解除できるって本当?
「借金が膨らんでいたが、どうせ返済できないからと放置していたら、突然給料が差し押さえられてしまった。このままだと、以降の生活が立ち行かなくなってしまう。そのため、何としても差し押さえを解除したい。」
このような状況を解決する手段の一つとして、「自己破産」があります。
ここでは、自己破産による給与差し押さえの解除について解説します。
このコラムの目次
1.給与差し押さえとは
(1) 差し押さえとは
差し押さえは、債権者(お金を貸した側)が、債権(借金)を回収するために債務者(お金を借りた側)に対して行う強制執行の一つです。
つまり、債務者が長期に渡って借金を返済しない場合、債権者は強制執行を行うことで、債務者の財産を差し押さえて返済に充てることができるのです。
差し押さえは、給与や銀行口座にある預金等の金銭に限らず、家や車などの財産に対しても行われます。
(※家や車などの財産は、競売等の換金手続きを経る必要があり、手間がかかるため、給与や預金の差し押さえの方が主に行われます。)
(2) 給与差し押さえまでの一般的な流れ
借金の返済が滞っても、それだけで直ちに差し押さえがなされるわけではありません。
支払が滞っていると、債権者から、支払を促す電話や郵便が送られてきます。それらを数ヶ月もの間無視し続けていると、債権者は強制執行を行うために、「債務名義」というものを取得しようと動き始めます。
債務名義は、債権(借金)の存在を証明・表示するもので、これがあることにより、裁判所は強制執行を許可します。
債務名義を得るために、債権者は裁判所に訴訟を提起したり、支払督促(債権者の申し立てた資料等により債権の存否を確認し、これが認められた場合債務者に支払命令を出す制度)の申し立てをしたりします。
訴訟によって勝訴判決を得ると、その確定判決文が債務名義となります。
しかし、訴訟は時間と手間がかかるため、債権者はあまり好まない傾向が強く、多くの場合は支払督促を行います(もちろん、実際に訴訟を提起する債権者もいます)。
支払督促では、債務者に対し、裁判所から支払命令が送られます。それを放置していると、最終的には「仮執行宣言付支払督促」が裁判所から債権者と債務者に送付されます。
この仮執行宣言付支払督促は債務名義の一例であり、これにより、債権者は強制執行が可能になります。
債務名義の取得後、債権者が強制執行(差し押さえ)の申立てをすると、裁判所は債務者本人と債務者の勤務先に「債権差押命令書」を送ります。
その後、実際に差し押さえがなされます。
2.給与差し押さえの金額
給与の差し押さえは、給与の全額に対して行われるわけではありません。給与全額が差し押さえられると、債務者の日常生活に多大なる影響を与えるおそれがあるためです。
よって、差し押さえの対象は手取り(給与額から税金等を引いた、自分が実際に受け取れる金額)の4分の1までとされています。
例えば、手取り30万円のAさんの場合、30÷4=7万5千円が差し押さえられます。
ただし、手取りの4分の3が33万円を超える場合は、33万円を超えた部分の金額全てを差し押さえられます。
例えば、手取り60万円のBさんの場合、60万円の4分の3は45万円で33万円を超えているので、60‐33=27万円が差し押さえられます。
3.給与差し押さえによる影響
給料が差し押さえられた場合の影響はいくつかあります。
まず、当然ですが受け取れる給料が減ります。これによって、今まで過ごしていたのと同等の生活ができなくなるかもしれません。
債務を弁済しきるまでは毎月給与が差し押さえられ、受け取ることができるお金が減少し続けることになります。
また、会社にも借金の存在・滞納が発覚します。
前述したように、差し押さえに際しては、裁判所から勤務先にも債権差押命令書が送付されます。そのため、勤務先には確実に借金がばれてしまいます。
4.自己破産で給与差し押さえを解除可能
今まで述べたように、給与の差し押さえがなされると、多くの不利益を被ることになります。そこで、これを予防・解除する方法が気になるところです。
給与の差し押さえを解除するために取りうる手段の一つとして、自己破産があります。
(1) 自己破産とは
自己破産とは、破産者の今ある財産をもって債務を弁済し、債権者の公平な満足を図り、そして、破産者を多大な債務から解放する制度です。
つまり、自己破産が認められる(免責許可)と、借金がゼロになり、新たな生活を始められることになります。
(2) 破産による給与差し押さえの解除
破産手続きが開始されると、差し押さえ等の強制執行は禁止されます(破産法42条1項)。
自己破産による給与差し押さえの解除は、管財事件か同時廃止かによりその内容が異なります。
管財事件
管財事件の場合、破産手続きの開始と同時に差し押さえは効力を失います(破産法42条2項)
以降、債務者は満額の給料を受け取れるようになります。
同時廃止
一方、同時廃止の場合、免責手続が継続中は、差し押さえ等の強制執行は失効ではなく中止されます(破産法249条1項)。
つまり、効力自体がなくなるわけではないので、手続き中も差し押さえは続き、債務者は給与の満額を受け取ることができません。
他方、債権者も、差し押さえた給与から債権を回収することはできません。
もっとも、免責許可(借金を0にすることを認められること)を得ると、差し押さえ等の効力は失効し(破産法249条2項)、満額の給与に加え、手続き中に差し押さえられていた(プールされていた)給与等も受け取ることができます。
免責許可を得られなかった場合は、中止していた強制執行手続きが再開されることになります。
5.給与差し押さえの解除は弁護士にご相談ください
差し押さえを解除する手段として、自己破産を紹介しました。もっとも、差し押さえの解除方法は他にも、債権者と交渉する、個人再生などの手段があります。
差し押さえをされた場合に取りうる手段は、それぞれにメリット・デメリットがありますので、給与を差し押さえられたので、これを解除したい!と思った場合は、お気軽に弁護士にご相談ください。
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