適切な後遺障害診断書を手に入れるためのポイント
交通事故で後遺症が残っても、後遺障害等級の認定がなければ、原則、後遺症の損害である逸失利益や後遺障害慰謝料を請求することができません。
後遺障害等級認定は、中立的な審査機関が行いますが、その審査では、提出された書類だけで判断が行われます。
後遺障害診断書は、後遺障害等級認定の行方を左右する最重要書類です。
後遺症自体の有無・後遺症と交通事故との因果関係・後遺症による労働能力の低下など後遺障害と認定されるために不可欠な事情を、事情をよく知る医師に記載してもらうものだからです。
ところが、後遺障害診断書を作成してもらったところ、内容がスカスカで認定を受けられなかった、ということは、残念ながら珍しくありません。
後遺障害診断書の記載内容は、認定条件の判断にストレートに影響を与えます。
このコラムでは、適切な後遺障害診断書を手に入れる可能性を上げるためのポイントを紹介します。
このコラムの目次
1.事故に遭ったらすぐ通院する
交通事故に遭ったら、2,3日以内、どんなに遅くとも1週間以内には医師の診察を受けてください。
交通事故による損害賠償請求全般に共通する最重要事項です。
特にむち打ちの痛みなどは事故から数日たってようやく自覚できることもあります。
違和感に気付いたらすぐに病院に駆け込んでください。
初診の診察では、どこの部位にどのような症状があるのか、どのような交通事故だったのか、交通事故でどのような衝撃を受けたのか、などの点について、できる限り具体的に医師に説明してください。
(1) 原因が交通事故であると証明できる
損害賠償請求をするには、交通事故と損害との間に原因結果の関係、すなわち因果関係が不可欠です。
交通事故→ケガ→後遺症と因果関係が連なって認められることで、交通事故と後遺症の因果関係も認められます。
交通事故直後に通院することで、交通事故が原因のケガであることを医師に診断してもらいましょう。
そうすれば、後遺障害診断書の医師の記載から、審査機関が因果関係を認定する可能性が高くなります。
初診を先延ばしにしてしまうと、審査機関が、交通事故が原因だという後遺障害診断書の記載を疑うおそれがあります。
交通事故以外の原因でケガをした可能性が出てきてしまうからです。
(2) ケガや後遺症を証明しやすくなる
レントゲンやCT、MRIなどの画像検査、その他の専門的な神経学的検査も、できる限り早くに受けてください。
後遺障害診断書には、検査結果の記入欄があります。
検査結果は、医師の判断や被害者の自覚症状の記載の客観的な裏付けとして非常に重要です。
特に、画像検査で後遺症の原因となったケガの状況がだれの目からも明らかになれば、因果関係や症状の重さなどを証明しやすくなります。
このような医学的な画像検査により客観的に症状がわかる証拠は「他覚的所見」と呼ばれています。
他覚的所見の有無は、損害賠償金の増減に大きな影響を与えます。
たとえば、むちうちであれば後遺障害の慰謝料が100万円程度から300万円弱とおおきく変わります。
ある程度治療してから検査をすると、ケガが回復してしまったことでかえって各種検査で症状の内容がわからなくなってしまいます。
後遺障害等級認定の審査機関が重視する検査と、医師が重視する検査とではずれが生じることもあります。
弁護士に早くから相談して、必要な検査はどのようなものかを確認し、医師に検査を依頼しましょう。
2.こまめに通院して医師としっかりコミュニケーションをとる
1か月以内の間隔で通院を継続してください。
通院中は、医師からの指示を優先して守り、症状の経過も医師にしっかりと伝えてください。
また、通院の間隔は、原則として1か月以内を守ってください。
ここでも、ほかの原因が紛れ込んでいないか疑われるおそれがあるからです。
さらに、症状固定という交通事故の損害賠償制度特有の問題もあります。
通院中の医師とのコミュニケーションがうまくいけば、様々な問題を乗り越え、よりよい後遺障害診断書を手に入れられやすくなります。
通院したときは、医師に具体的な症状の内容を伝え続けてください。
後遺症を医学的に証明するには、事故による症状発生から症状固定までの間、同じ体の部分部位に・同じような症状が・一貫継続していることを医師が認めていることが大切だからです。
後遺障害診断書には、被害者の方の自覚症状を記載する欄が広くとられています。
診療で医師に話す→カルテに記録を残してもらう→後遺障害診断書に記入してもらうという流れを作るようにしましょう。
症状固定とは、治療を続けても回復不可能となった、つまり後遺症が残ってしまったとみとめられるときをいいます。後遺障害診断書にも記載することになっています。
通院間隔が長くなると、実際よりも早く症状固定となったと診断されるおそれがあります。
後遺障害認定の判断では、症状固定に至るまでの治療期間は重要な判断要素の一つです。期間が長いほど、重症であったと推測できますから、認定を受けやすくなります。
3.通院する病院を選ぶ
ケガの内容に合った専門医の診察を受けてください。
(例えば、持病でお世話になっているかかりつけの病院でついでに診察を受けないでください。後遺障害診断書を書いてもらえるか、診断書に記載する専門的な検査を受けられるか、保証はできません。)
また、接骨院などは病院ではありませんので、医学的な検査や正式な診断書を作成することはできません。
接骨院に通う場合には、必ず、整形外科など病院とあわせて利用してください。
4.後遺障害診断書の作成は担当医に依頼
できる限り、事故直後から最も長く診察してくれた医師に後遺障害診断書を書いてもらいましょう。
後遺障害等級認定で重要な資料となる、以下のような事情に最も詳しいのは、間違いなく、長くお世話になった担当医だからです。
- 事故とケガ、後遺症の因果関係
- 治療経過
- 被害者の方の自覚症状
- 検査結果
- 医師が後遺症について判断した医学的な知見
症状が一貫していること、症状が残ってしまったことを説得力ある内容で作成してくれるのは担当医です。
実際、後遺障害診断書の記載項目の中には、後遺障害診断書を作成した病院への入院や通院の期間、日数を記載する項目があります。
例外的な事情があったために転院していた場合でも、できる限り、まずは、転院前の医師に後遺障害診断書を作成してもらえないかを検討しましょう。
もし、転院前の医師に後遺障害診断書を作成してもらえることになったら、転院先の病院での検査結果やカルテ、診断書などを提供し、資料を十分なものにしてください。ただし、症状固定日が前倒しにならないよう注意が必要です。
5.後遺障害診断書を渡されたその場で確認、修正を依頼
後遺障害診断書を医師から渡されたら、必ず、その場で内容を自分の目で確認し、気になるところがあれば遠慮なく医師に質問してください。
できれば、医師に修正を依頼してください。
後遺障害等級認定手続には、被害者の方が書類を集めて申請する被害者請求と、加害者側の任意保険会社が申請を代行する事前認定があります。
後遺障害診断書は、被害者請求ではもちろん、事前認定でも被害者の方自身で医師から直接手に入れることになるでしょう。
繰り返しますが、後遺障害診断書の内容は最も重要な証拠です。
その内容に漏れや間違いがあれば、後遺症の認定が正確に行われることは期待できません。
あとから後遺障害診断書を訂正してもらうことは、非常に難しいです。
特に、以下の項目の内容が正しいか、細心の注意を払って確認してください。
ネットの画像検索でサンプルがすぐ確認できます。サンプルを確認しつつ、どこに以下の項目があるのかを見ながらお読みください。
(1) 症状固定日
通常は最後の診察日が記載されます。
それ以前の日付や、「不詳」との記載がされていないか確認してください。
(2) 既存障害
交通事故以前から持っていた障害が記載されます。
既存障害の重さ次第では、損害賠償金が減額されるおそれがあります。身に覚えのない既存障害が記載されているような場合には、削除してもらう必要があります。
(3) 自覚症状
自覚症状の記載欄はそれなりに広めにとられています。
通院中かなり具体的に症状を伝えたのに、一言だけしか記載されていないなど、問題がある場合には、カルテの確認を促し、また、その場で改めて自覚症状の経過を訴えて、記載を充実させてください。
(4) 各部位の後遺障害の内容
体の様々な部分について、障害の内容や検査結果などが記載されます。特に全身図が印刷されている欄は空白が非常に広くとられています。
充実した記載がされているか、集中して確認してください。
(5) 障害内容の増悪・緩解の見通し
「増悪」とは、症状が将来悪くなること、「緩解」とは、症状が回復することを言い、要するに、後遺症の将来の見通しを記載してもらう項目です。
「症状固定」「緩解の見通しなし」などなら問題ありません。
「緩解の可能性あり」「不明」との記載があると、後遺症自体が医学上証明できないとされるおそれがあります。医師に修正を依頼してください。
6.まとめ
後遺障害の認定を受けなければ、逸失利益や後遺障害慰謝料などの後遺症についての損害賠償金を手に入れることはできません。
認定を受けるための最大のハードルが、充実した内容を持つ後遺障害診断書を手に入れることです。
とはいえ、一般の方は、医学的な知識も、法律的な知識も、専門的な知識を持っていません。
弁護士に依頼すれば、以下のような助言を受けることができます。
- 後遺障害診断書に記載すべき検査の種類
- 後遺障害診断書で重要となる症状の内容や治療状況の経過
- 後遺障害診断書を確認する際に注意が必要な具体的ポイント
具体的な後遺症の内容や医師の協力次第では、弁護士が事前に医師への手紙などを作成し、後遺障害診断書の記載内容をリードできることもあります。
泉総合法律事務所では、これまで多数の後遺障害等級認定手続の相談を受け、交通事故の被害者の皆様をお手伝いしてまいりました。
後遺症が残ってしまった、あるいは、交通事故で後遺症が残るかもしれないと心配されていらっしゃる被害者の皆様のご相談をお待ちしております。
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