暴行事件の慰謝料の決まり方
暴力事件を起こしてしまった以上、処罰されることは当然です。
しかし、被疑者やその家族は、今後のことを考えると、できるだけ軽い処罰で済むことを願うでしょう。
被害者と円満に示談して、その許しを乞い、できれば前科がつかないように、不起訴処分で終わることができれば、被疑者本人はもちろん、その家族にとっても、これに勝ることはないともいえます。
そこで問題となるのが、示談金(慰謝料)の内容です。
慰謝料の算定については、精神的損害のため、被害者ごとに考慮すべき要素が異なります。
暴力事件の慰謝料が果たして定額化になじむのか、また、どこまで個別事情を考慮すべきなのか、難しいところだと思われます。
実際のところ、暴力事件を起こしたとすれば、どのくらいの慰謝料を支払わなければならないのでしょうか。
以下においては、暴力事件の一般的説明のほか、暴力事件における示談の重要性、暴力事件おける示談金の内容、暴力事件における慰謝料などについて、説明することとします。
このコラムの目次
1.暴力事件について
暴力事件としては、刑法上、暴行罪(刑法208条)と傷害罪(刑法204条)があります。
暴力事件があっても、被害者が怪我をしなければ暴行罪の成立にとどまり、他方で、被害者が怪我を負った場合には、傷害罪に問われます。
そして、それぞれの刑罰には、大きな違いがあり、暴行罪(2年以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留又は科料)に比し、傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)の方がより重く処罰される規定となっています。
また、暴力を加えた結果、暴行にとどまったか・傷害にまで至ったかでは、その刑罰の違いだけでなく、被害者との示談という側面で見た場合でも、傷害罪に伴う損害賠償の金額の方がはるかに高くなるのです。
2.暴力事件における示談の重要性
暴力事件を起こした場合、犯行に至る経緯に酌むべき事情がある、犯行態様が悪質とはいえない、生じた結果も比較的軽いという場合などには、在宅で捜査が進められることもあります。
しかし通常は、逮捕だけでなく、10日間の勾留、さらに、やむを得ない事情があれば10日以内の勾留延長がなされることになります。
そして、暴行罪であれ、傷害罪であれ、暴力事件を起こした場合、身柄拘束からの解放はもちろん、検察官の不起訴処分が得られるためには、被害者との示談が必要不可欠なのです。
被害者に対しては、心から謝罪の気持ちを伝え、怪我の治療費(傷害罪の場合)や慰謝料等の損害賠償の問題について、誠意をもって話し合いを重ねていけば、被害者もその誠意を認めて、示談に応じてくれることが期待されます。
示談が成立すれば、検察官が、不起訴処分(起訴猶予)とする可能性も高くなりますし、仮に起訴する場合でも、正式裁判ではなく略式起訴(罰金)とすることも考えられます。
また、示談の成立によって、検察官は、事件の早期処理が可能になり、被疑者を早期に釈放することも考えられます。
そして、起訴されて公判請求された時には、示談が成立していれば、その結果は最終的な判決において有利な情状として斟酌されますし、保釈の許否の判断でも有利な材料になるといえるのです。
このように、暴行罪や傷害罪のような暴力事件では、示談の重要性は高いのです。
3.暴力事件における慰謝料
暴力事件の場合、被害者は、暴力による衝撃や外傷などの肉体的苦痛に加え、かなりの精神的苦痛を負うことが予想されます。
この精神的苦痛を精神的損害として金銭に換算し、被害者に賠償しようというのが慰謝料です。
暴行にとどまる場合、傷害に至った場合、さらに後遺障害が残った場合では、一般的に、精神的苦痛に違いが出てきます。そのため、慰謝料については、被害者側の事情と被疑者側の事情という、当事者双方の事情が総合的に考慮されて、その金額が算定されるのが望ましいわけです。
しかし、実際上は、当事者双方の見解がかみ合わないことも多いのです。
そこで、次善の方法として、民事交通事故の損害算定基準である「弁護士基準」が参考として用いられています。
以下では、傷害に至った場合、後遺障害が残った場合、暴行にとどまった場合の順に、それぞれの慰謝料について説明することとします。
ただ、本来は、当事者双方の事情が考慮されるべきですから、最初に、慰謝料の金額を算定するに当たり考慮される、当事者双方の主な事情を挙げておきます。
(1) 当事者双方の事情
被害者側の事情
- 負傷の部位・程度
- 入通院期間、治癒の見込み
- 資産・収入や生活程度、家庭内における立場や扶養関係
- 年齢、性別、学歴、職業、既婚未婚の別、社会的地位
- 落ち度の有無、犯行誘発の有無・程度、反撃の有無・程度など
被疑者側の事情
- 加害行為の内容・程度
- 犯行に至った動機
- 謝罪や見舞いの有無、示談交渉に向けての誠意の有無・程度など
(2) 傷害に至った場合の慰謝料
傷害に至った場合の慰謝料は、実務上、入通院日数によりほぼ定額化されています。
弁護士基準での傷害慰謝料は、入院慰謝料+通院慰謝料(総治療期間の通院慰謝料-入院期間分の通院慰謝料)で算定されます。
例えば、入院1か月、通院1か月であれば、1か月の入院慰謝料は53万円、1か月の通院慰謝料は、52万円(総治療期間[入通院期間の合計・2か月]の通院慰謝料)から28万円(入院期間・1か月分の通院慰謝料)を差し引いた24万円です。
したがって、53万円(入院慰謝料)と24万円(通院慰謝料)の合計額77万円が、弁護士会基準での慰謝料額となります。
なお、この算定はあくまでも目安であって、当事者双方に上記のような事情がある場合には、増額又は減額が検討されるでしょう。
(3) 後遺障害が残った場合の慰謝料
後遺障害が残った場合の慰謝料は、実務上、後遺障害等級により定額化が図られています。
弁護士会基準での後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じて算定されます。例えば、1眼の視力が0.6以下になったのであれば、後遺障害等級第13級1号に該当しますので、180万円が弁護士会基準での後遺障害慰謝料額となります。
なお、この算定はあくまでも目安であって、当事者双方に上記のような事情がある場合には、増額又は減額が検討されるでしょう。
(4) 暴行にとどまった場合の慰謝料
暴力事件でも、被害者に怪我を負わせないで、暴行にとどまった(暴行罪成立)場合には、示談金を算定するに当たり、被害者に生じた財産的損害と慰謝料を明確に区別するのは、実際上難しいと思われます。
そうしますと、慰謝料額は、財産的損害も含んだ趣旨で、必要かつ相当な費用として算定することになりましょう。
しかし、この算定基準は示談金を弁護士サイドが掲示するときの判断材料にとどまるものであり、被害者がこの金額で合意しなければならないものではありません。
一番重要なのは、被害者が示談金額に納得することであり、納得することで初めて示談が成立することになります。
このような前提に立った場合、これまでの一般的な例でいえば、暴行にとどまった場合の慰謝料額(財産的損害を含みます。)は、10万円~30万円となります。
傷害の結果が発生した場合、財産的損害については、積極損害として、治療費、付添看護費、入院雑費、通院交通費、弁護士費用(被害者に弁護士が付いた場合)が、消極損害として、休業損害、逸失利益が、また、慰謝料については、傷害についての慰謝料と後遺障害についての慰謝料が、それぞれ含まれることになります。
また、暴行にとどまる場合は、傷害のような基準の設定が難しく、必要かつ相当な費用として算定せざるを得ないと思われます。
4.暴行事件の被疑者の方は弁護士がサポート
被害者にしても、被疑者にしても、慰謝料を計算するという経験はないことでしょう。
慰謝料が精神的苦痛を金銭に置き換えるものである以上、当事者双方の事件に対する受け止め方いかんによっては、話し合いも難航することが予想されます。
暴力事件では、早期の示談がいかに重要であるかはいうまでもありません。暴力事件を起こし、被疑者となってしまった場合には、刑事弁護に精通し、慰謝料を含む示談交渉の経験の深い、泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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