交通事故に遭った主婦(専業・パート)は休業損害を請求できる?
「子どもを保育園に送って、パートに向かう途中に交通事故被害に遭いました…」
忙しい朝は、通行する人も車も自転車も皆急いでいます。そんなときこそ、交通事故が起きやすいです。
主婦の方でも、パートに行く途中に事故に遭ったという方はたくさんいらっしゃいます。
追突事故などの交通事故被害に遭うと、身体や家族の心配はもちろん、収入面の心配も深刻です。フルタイムで働いていなくとも、パートやアルバイトの収入がなくなると生活は苦しくなってしまうでしょう。
実は、交通事故の影響でパートを休まなければいけなくなった場合、休業損害というものがもらえるというのはご存知ですか?これは専業主婦であっても同じです。できる限り保障を受け取り、安心した生活を送りましょう。
今回は、主婦が追突事故等の交通事故に遭った場合の休業損害についてご説明いたします。基本的な内容から、実際にどのくらいの額がもらえるのかまでご説明します。
このコラムの目次
1.休業損害の基本
まずは、休業損害の基本について学んでいきましょう。専業主婦でも受け取れるのかについても詳しくご説明します。
(1) 休業損害とは
皆さんご存知の通り、交通事故の被害者になってしまった場合、加害者や任意保険会社から事故に関する補償を受け取ることができます。
しかし、多くの方がご存知である治療費や車の修理費、慰謝料だけが損害賠償金の中に含まれるのではありません。この中には、「休業損害」というものも含まれています。
休業損害とは、事故被害により働けなくなった分の損害を補償するもののことです。一般的には、サラリーマンや個人事業主、経営者の方など、働いている方の生活を保障するための損害金となります。
交通事故のケガが原因で働けないと、その分生活費が減ってしまうだけでなく、働けないことで会社にも迷惑をかけてしまうことになります。このような不利益についても、事故による損害として加害者が負担すべきだと考えられています。
つまり、休業損害は、事故がなければ得たであろう収入を補償しましょうというものです。
もっとも、休業損害はずっともらえるというものでもありません。ケガが完治するか、医師から症状固定と診断されるまでの期間を限度に補償されるものとなります。
また、休業損害を得るためには休業損害証明書を提出しなければなりません。休業損害証明書は勤務先に書いてもらうのが通常であり、勤務先の人事部等に提出する必要があります。
(2) 専業主婦に休業損害は認められる?
休業損害は働けなくなった分の収入を補償するものだとご説明しましたが、そうすると次の疑問が湧いてきます。
「専業主婦は外で働いていないから休業損害は認められないの?」
確かに、専業主婦の方は家の外で働いてお給料をもらっているわけではありません。
しかし、専業主婦の方は、家庭内で掃除や食事などの家事、子どもや家族の世話を行い、家族を支えていることでしょう。実は、このような専業主婦の家庭の仕事は、法律上家事労働として考えられています。そのため、専業主婦でも事故の影響でむち打ちになり、家事ができなくなってしまった、あるいは困難になってしまった場合には、休業補償が得られるのです。
専業主婦以外でも、パート主婦やアルバイト中の学生なども、休業損害の補償の対象となります。対象とならないのは、年金受給者や働いていない学生、不動産で家賃収入を得ている方などです。これらの方は、事故による収入面の影響を受けないと考えられているからです。
(3)いつもらえる?
加害者が加入している保険会社によって異なりますが、一般的には、示談成立後、2週間前後にもらえるといえます。
2.休業損害の決め方
次に、休業損害の計算方法についてご説明いたします。基本的な自賠責保険の計算方法で、1日いくら受け取れるのかも見ていきましょう。
(1) 休業損害は基礎収入と休業日数で計算する
では、休業損害はどのように計算するのでしょうか。
休業損害は、「1日の基礎収入×休業日数」の合計で計算されるため、基礎収入と休業日数を知らなければいけません。
①基礎収入
まず、基礎収入とは、休業損害を計算するために基本とすべき収入額のことです。サラリーマンなど現実に収入を得ている方は、その年収を基礎収入とするのが基本です。
他方、専業主婦の場合は、家事労働です。これは実際にお給料をもらっているわけではないので、計算ができません。
そんなときのためにあるのが「賃金センサス」というものです。年齢、学歴、性別、企業規模などから平均年収を見つけることができる公的な統計データで、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」、通称「赤い本」に掲載されています。
専業主婦の場合は、基礎収入を賃金センサスから割り出すことになります。
②休業日数
次に、休業日数とは、事故により仕事を休まなければいけなくなった日数のことです。実際上は、入院日数や通院日数によって判断することになります。
有職者の場合は、休業したことによる現実の収入減とします。
一方、専業主婦の場合、休業日数は争いが出やすい項目の1つでもあります。というのも、休業日数とされるすべての日が100%休業としてカウントされるわけではないからです。
治療が進むにつれ、動ける日も増えていきますが、その分を休業とカウントせず、70%休業というように判断することがあるのです。
「事故後1ヶ月は100%休業だが、残りの1ヶ月は50%休業」というように、パーセンテージで休業日数を判断していきます。
(2) 休業損害の3つの計算方法
計算するには、基礎収入と休業日数の両方が必要になるということはわかりました。では、実際に計算するにはどのような計算式を使うのでしょうか。
実は、休業損害の計算方法には、3つの種類があります。これは慰謝料と同じ種類なので、もしかすると皆さん聞いたことがあるかもしれません。
それは、①自賠責基準と、②任意保険会社基準、③弁護士基準(裁判基準)、の3つです。
①自賠責基準
自賠責基準は、慰謝料計算では一番低い基準を採用しています。休業損害についても同様に考えてよいでしょう。
もっとも、自賠責基準は基礎収入が1日6,100円(※なお、2020年3月31日以前の事故は日額5,700円)とわかりやすくなっているため、基本の額として認識しておくべきでしょう。
②任意保険会社基準
任意保険会社基準でも、自賠責基準と同様、1日6,100円(2020年3月31日以前の事故は5,700円)として計算されます。として計算されます。
③弁護士基準(裁判基準)
最後に、弁護士基準です。弁護士基準は、弁護士に依頼した場合に利用される基準であり、裁判でも用いられている基準です。3つの基準では一番高額な計算式であり、慰謝料額・休業損害額も高くなります。
3.休業損害の具体例
(1) 自賠責基準で専業主婦の休業損害を計算
では、実際の専業主婦の事例から休業損害を計算してみましょう。
自賠責は、1日6,100円(2020年3月31日以前の事故は5,700円)を基礎収入として計算します。
自賠責保険の基準:基礎収入(6,100円)×休業日数=休業損害
1ヶ月の入院、2ヶ月の通院治療(通院16回)、3ヶ月間休業
6,100円 × 91(休業日数)= 合計 55万5,100円
専業主婦で3ヶ月入院治療を行った場合は、 55万5,100円の休業損害が認められることがわかりました。
実際は、どの程度休業したかという点で争いが出ることもあります。ご自身で計算する際の参考にしてみてください。
(2) 弁護士基準で専業主婦の休業損害を計算
次に、弁護士基準の休業補償の計算方法をご説明します。弁護士基準では以下の計算式で計算していきます。
弁護士基準:1日の基礎収入×休業日数=休業損害
兼業主婦の場合、1日の基礎収入は、原則として現実の収入か賃金センサスを目安とし、高い方を基準とします。現実の収入に関しては、事故前3ヶ月間の平均収入を算出し、基礎収入とします。
ちなみに、フルタイム、あるいはフルタイムと同視できる就労をしている場合には、就労の実減収が賠償されます。
先ほどのケース1の専業主婦の例を計算してみましょう。専業主婦は仕事をしていないので、賃金センサスを基準とします。
平成30年度の賃金センサスでは、ケース1の専業主婦の年収は382万6,300円なので、1日あたりは10,483円となります。
1ヶ月の入院、2ヶ月の通院治療(通院16回)
・1ヶ月目は100%休業 10,483円×30= 314,490
・2ヶ月目は、80%休業 10,483円×70%×31= 259,978
・3ヶ月目は、40%休業 10,483円×40%×30= 125,796
合計 700,264円
自賠責基準では51万8,700円だったのが、弁護士基準70万264円となりました。弁護士基準の方が大きく休業損害の額が変わっているのがわかります。
4.休業損害の額に納得できないなら弁護士に相談を
専業主婦でも休業損害は認められます。これは、パートをしていても同じです。原則として、働いていない場合は休業損害を受け取ることができませんが、専業主婦は家事労働として認められているのです。
加害者側の任意保険会社に一括対応で任せていた場合、休業損害の額を提示され納得できない方もいらっしゃると思います。実際の見積もりをみて、「なぜこれだけなの?」と疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。
また、保険会社によっては「専業主婦は働いていないのだから休業損害はありませんよ」と言われることもあるようです。
そんなときこそ、弁護士にご相談ください。
泉総合法律事務所は、交通事故の案件を数多く取り扱うプロの弁護士が揃っています。豊富な知識と経験から、休業補償から慰謝料までご希望に添えるようサポートいたします。
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