会社の借金|銀行融資を返済できない(返せない)場合の対処法
世の中には「無借金経営」を謳う会社もありますが、通常は、銀行などから運転資金を借り入れて経営している会社が大半です。
どのような会社にも多かれ少なかれ借金はあります。問題は、会社の経営が厳しくなり、予定どおりの返済が難しくなったときです。
このような場合に、銀行に返済条件の変更を申し入れる「リスケ」という方法が知られていますが、どうやって銀行と交渉すればよいのでしょうか。また、リスケに失敗した場合にはどうすればよいのでしょうか。
ここでは借入金が返せなくなった場合のリスケについて解説します。
このコラムの目次
1.リスケにまつわる疑問
会社の借入金を返せなくなった場合に、「売上を増やそう」、「経費を減らそう」と考えても、すぐに効果が出るとは限りません。
そもそも思い立ってすぐに売り上げが増えたり、経費が減らせたりするなら、返済に困るようなこともなかったはずです。
(1) そもそもリスケとは
リスケとは、正確にはリスケジューリング(rescheduling)といい、返済の繰り延べのことです。
銀行と返済条件について交渉して、借入金の返済期間を延ばしてもらったり、一定期間は利息の支払いだけにしてもらったりするなどして、毎月の返済負担を軽くします。
ちなみに、現在では、打合せや会議予定の日程変更などの場合にも「リスケ」を使うので、ビジネス用語としてはもう少し広い意味を持っています。
(2) リスケの交渉は難しいか
「銀行と返済条件について交渉する」といっても、特別なプレゼンテーション能力が必要なわけではありません。
むしろ、口八丁手八丁で説明したところで、会社の経営に関する合理的な裏付けがなければ、リスケに応じてもらえません。
ポイントは「リスケに応じた方が、経済合理性がある」と銀行に認めてもらえるかどうかです。
融資先の会社が倒産するより、返済に猶予を与えて、多少時間がかかっても全額を回収する方が銀行にとっては「得」に決まっています。
要するに、リスケをのんだ方が得だ、と認めてもらえればいいわけです。
(3) 銀行はどうやって判断するか
銀行は、金融庁の監督指針や検査マニュアル等に基づいて、リスケの合理性を判断しています。銀行や銀行の担当者によって判断基準が違っては困ります。
経営改善計画を提出させ、概ね3年以内に債務超過が解消して黒字化できる、と認められるかどうかが基準となります。
なお、中小企業の場合は、もう少し要件が緩められ、概ね「5年」以内に債務超過が解消して黒字化できるかどうかを判断します。
つまり、しっかりとした経営改善計画が作成できれば、リスケに応じてもらえる可能性が高いといえるでしょう。
逆に、経営改善計画に絵空事を書いていたり、合理性に欠けるような場合には、いくら経営者が熱弁をふるってもリスケには応じてもらえません。
(4) 銀行はリスケを嫌がる?
銀行がリスケを嫌がるのは事実です。
その理由の一つが「貸倒引当金」の問題です。貸倒引当金とは、倒産などで貸付金が回収できなくなる場合に備え、取立不能見込額をあらかじめ見積もって計上しておくお金のことです。
銀行は、融資先を「正常先」、「要注意先」、「破綻懸念先」、「実質破綻先」、「破綻先」というランクに分けていて、それぞれに貸倒引当金を計上しています。
銀行によって若干異なりますが、「破綻懸念先」になると、貸付金残高の約70%を引当金として積まなければなりません。
もし、リスケに応じられない会社が出てきた場合には、「正常先」から「破綻懸念先」に格付けが下がり、それに伴って貸倒引当金の積み増しが必要になります。
貸倒引当金の分だけ銀行の利益が減ってしまいます。
もう一つは銀行マンの問題です。銀行マンが、リスケに応じて会社を救済したとしても、特に評価につながるわけではありません。
むしろ、リスケの承認を得るための資料作りやら何やらで、手間ばかりかかります。
銀行マンもサラリーマンである以上、気の乗らない仕事であっても避けては通れないのです。
こうした事情を考えると、銀行に対して「リスケに応じて当たり前」といった態度は控えるべきでしょう。
(5) リスケのメリット
借入金の返済負担が減ることです。月々の返済負担が減れば、会社の資金繰りもしやすくなります。これが唯一にして最大のメリットといえるでしょう。
ただし、リスケは長くても1年間ですので、1年経ったときに、あらためてリスケの期間を更新してもらわなければなりません。
銀行はただ単に返済を猶予しているのではなく、「経営改善を図る時間を与えている」ということです。
リスケしてもらっている間に、会社の経営を立て直さなければなりません。
(6) リスケのデメリット
当初の約束どおりの返済ができない以上、まったくデメリットなし、というわけにはいきません。もちろんデメリットがあります。
リスケの最大のデメリットは、リスケが終わるまで新規融資が受けられないことです。
新規融資が受けられないと、万一、資金ショートを起こしたときに急場をしのぐことができず、倒産するしか道がなくなってしまいます。
「しばらくお金を借りる予定なんてない」などと、悠長に構えてはいられないのです。
もう一つのデメリットは「信用リスク」です。
リスケは会社の経営が厳しい状況にあることの表れです。もし、リスケしていることが取引先に知られた場合には、取引停止のおそれがあるので、基本的にリスケは極秘事項です。
また、取引先だけではなく、従業員に知られることも望ましくありません。会社の先行きに不安を感じて、退職者が出るおそれもあります。
したがって、中小企業などの場合には、従業員にリスケの交渉を任せるのは避け、経営者や取締役が自ら銀行との交渉にあたるべきです。
(7) リスケはいつ決断するべきか
あまりに資金繰りが悪化した状態では、リスケに踏み切ろうにも、銀行が検討している間に資金ショートを起こしてしまうかもしれません。
また、先ほど説明したとおり、リスケをすると、銀行は新規融資に応じてくれなくなるので、仮にリスケに応じてもらえたとしても、ある程度、資金的な余裕がないと経営が続きません。
資金残高が、月の売上額の1ヶ月分を割り込む前にリスケに踏み切るべきでしょう。
また、銀行にリスケを申し入れても、銀行の回答までにかなり時間がかかるので、資金ショートが2ヶ月以内に迫っている場合もリスケに踏み切った方がよいでしょう。
2.リスケに応じてもらえなかった場合
リスケに応じてもらえなければ、銀行に約定どおり返済していくのみです。
とはいえ、リスケを申し入れるほど経営状況だと、もはや約定の返済など不可能という場合もあるはずです。
しかし、その場合でもずるずると延滞を続けるのは避けるべきです。
3ヶ月以上の延滞が続くと、通常は「要管理先」に区分されます。「要管理先」となると不良債権扱いですから、銀行は貸付金の回収に移ります。
貸付金の一括返済を求められ、場合によっては、法的な回収措置に移ることもあるでしょう。
信用保証協会の保証付きの場合には、信用保証協会が代位弁済して(肩代わりして)、信用保証協会が債権者となります。また、銀行が貸付債権をサービサーに売却することもあります。
信用保証協会にしても、サービサーにしても、貸付金の回収、しかもなるべく早期の回収を目的とする組織ですので、事業の立て直しどころではなくなってしまします。
銀行がリスケに応じてくれなかった場合には、破産や民事再生なども視野に入れて、今後の対応を検討するべきでしょう。
3.法人破産をご検討なら泉総合法律事務所へ
破産や民事再生の申立てを弁護士に依頼する場合には、当然、その費用が必要ですが、それとは別に裁判所に予納金(手続き費用)を納めなければなりません。
債権者数や負債総額によっては、予納金が高額になることもあるので、運転資金が尽きてしまうと、法的手続きを申立てようにも、そのお金が捻出できず、身動きがとれない状況になるおそれもあります。
事業を継続するか断念するか、どちらにしても、資金にまだ余裕がある早い段階で決断が必要なのです。
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